
はじめに
日向「冴島さん、収支計画を作ってみたんですけど…本当にこれで大丈夫ですか?」
冴島「見せてください。…ふむ、日向さん、この売上の数字、どうやって出しましたか?」
日向「えっと…これくらい売れたらいいなって…」
冴島「希望的観測で作った数字ですね」
日向「…はい」
冴島「これでは金融機関を納得させられません。今日は、金融機関が『これなら返済できる』と確信できる収支計画の作り方を解説しましょう」
📌 この記事でわかること
金融機関が「返済できる」と確信する収支計画の作り方を解説します。
- 収支計画の本質(単なる計算式ではない)
- 2つのマインドセット(希望的観測NG、売上厳しめ・経費多め)
- 売上計画と経費計画の具体的な作り方
- 黒字化タイミングと返済可能性の確認方法
「これくらい売れたらいいな」では通用しません。論理的な数字の作り方を学びましょう。
収支計画とは何か
日向「そもそも収支計画って、売上から経費を引いて利益を出すだけじゃないんですか?」
冴島「よく誤解されますが、それだけではありません」
単なる計算式ではない
冴島「収支計画の本質は、『その事業が継続可能であることの証明』です。わかりやすく言うと、収支計画とは『あなたの事業の”未来”を”数字”という共通言語に翻訳したもの』です」
日向「未来を数字に翻訳…」
冴島「言葉で『うまくいきます!』と言っても、金融機関は信じません。でも、論理的な数字で示せば、客観的に評価できる」
収支計画が答えるべき3つの問い
冴島「具体的には、次の3つの問いに数字で答える必要があります。『いつ(When)』——開業後、いつ黒字化するのか。『なぜ(Why)』——なぜその売上が立つと言えるのか。『どうやって(How)』——資金が尽きる前に、どうやって利益を生む体制を作るのか。つまり、収支計画を作るということは、Excelのマスを埋める作業ではなく、『事業が生き残るためのシミュレーションを行うこと』なのです」
収支計画を作る2つのマインドセット
日向「計画を立てる時、どういう心構えが必要ですか?」
冴島「非常に重要なポイントを2つお伝えします」
マインドセット1:希望的観測ではなく論理的積み上げ
冴島「『これくらい売れたらいいな』『多分これくらい行くだろう』という希望的観測で数字を作ると、プロの目には一瞬で見抜かれます。私が支援してきた中でも、希望的観測で作った計画書は面談で必ず突っ込まれます。『この客数の根拠は?』と聞かれて答えられない」
日向「じゃあどうすれば…」
冴島「特に『売上』に関しては、客単価はいくらか、客数は平日と週末でどう違うか、回転率やリピート率は現実的か。これらを因数分解し、『なぜその数字になるのか』を論理的に説明できる数字だけを積み上げてください」
日向「『エイヤ!』で作っちゃダメなんですね」
冴島「『エイヤ!』で作った数字には責任が持てませんが、論理的に積み上げた数字には『自信』と『説得力』が宿ります」
マインドセット2:売上は厳しめに、経費は多めに
冴島「事業において、売上はあくまで『予測』ですが、経費はほぼ間違いなく発生する『確定事項』に近いものです。多くの失敗する計画書は、売上が最大値で書かれているのに、経費が見積もり漏れだらけというパターンです」
日向「見積もり漏れ…」
冴島「常に自分に問いかけてください。『もし客足が想定の7割だったら?』『もし原価が高騰したら?』。ネガティブなシナリオでも利益が出る、あるいは資金が回る構造を作っておくこと。これこそが、経営者としてのリスク管理能力であり、金融機関が最も評価するポイントでもあります」
売上計画の作り方
日向「具体的に売上計画はどうやって作ればいいですか?」
売上計画のステップ1:客単価の設定
冴島「まず、1人(または1組)のお客様がいくら支払うかを設定します」
日向「『だいたい3,000円』とかでいいですか?」
冴島「それでは弱い。『だいたい』ではなく、行動ベースでシミュレーションしてください。例えば居酒屋なら、500円のおつまみを2品、800円のメインを1品、600円のビールを3杯、合計3,900円。この積み上げが『平均客単価』の根拠になります」
売上計画のステップ2:客数の設定
冴島「次に、1日何人(何組)のお客様が来るかを設定します。ここでは『キャパシティ』という物理的制約を必ず意識してください。席数×満席率×回転数、ベッド数×営業時間÷施術時間など。店舗ビジネスには必ず『売上の天井』があります。それを超えた売上計画は現実味がありません」
日向「20席しかないのに、1日100人来る計画を立てたらおかしいってことですね」
冴島「その通りです」
売上計画のステップ3:月別売上の算出
冴島「客単価と客数が決まったら、月別の売上を計算します。客単価×客数×営業日数=月間売上。注意すべきは、季節変動を織り込むこと、立ち上がり期間を設定すること、営業日数を正確に把握すること。2月は日数が少ない、祝日の多い月は変動するなど」
経費計画の作り方
日向「経費はどう計算すればいいですか?」
固定費と変動費を分ける
冴島「経費は大きく『固定費』と『変動費』に分かれます。固定費は売上に関係なく毎月発生するもので、家賃、人件費、保険料など。変動費は売上に連動して増減するもので、原価、消耗品費、水道光熱費など」
主な経費項目
冴島「原価は売上×目標原価率(飲食なら30〜35%)。地代家賃は共益費・駐車場代も含めた総額。人件費は職位別に給与を設定し積み上げ。広告宣伝費はポータルサイト、チラシ、SNS広告など。水道光熱費は売上の5〜7%が目安。その他、通信費、消耗品費、保険料なども忘れずに」
人件費の注意点
冴島「特に注意が必要なのが『人件費』です。売上が伸びれば、人手が必要になります。売上計画で客数が増えるタイミングを見越して、事前に人員を増やし、人件費が上がることを計画に盛り込んでおいてください」
収支の健全性チェック
冴島「売上計画と経費計画が出揃ったら、それらを合体させて収支(売上-経費)を確認します」
最重要チェックポイント:黒字化タイミング
冴島「一番見ていただきたいのは、『開業何ヶ月目で単月黒字化するか』という点です。1〜3ヶ月目は早すぎて、売上が楽観的か経費の計上漏れの可能性がある。4〜6ヶ月目が最も順当で健全な計画。10〜12ヶ月目は遅すぎて資金ショートの恐れ。1年以上なら事業計画自体の再検討が必要です」
日向「1ヶ月目で黒字だと逆に怪しいんですか」
冴島「はい。現実離れしています。開業初月から計画通りの売上が立つことはまずありません」
返済可能性を示す
冴島「金融機関が最終的に、そして最もシビアに見ているのが『返済可能性』です」
利益と現金は別物
日向「黒字なら返済できますよね?」
冴島「よくある誤解です。利益(PL)が出ていることと、返済原資となる現金(キャッシュフロー)があることは別物です。例えば、売上が立っても入金が2ヶ月後、でも仕入れの支払いは1ヶ月後。この場合、帳簿上は黒字でも、手元の現金はマイナスになる」
日向「黒字倒産ってやつですか」
冴島「そうです。だから『黒字かどうか』だけでなく、『現金が回るかどうか』も見ないといけない」
返済原資の計算
冴島「返済原資はこう計算します。返済原資=税引後利益+減価償却費。この金額が、毎月の返済額を上回っていることを確認してください。返済原資が返済額を下回っていたら、その計画は成り立ちません」
📌 収支計画の2つのマインドセットと健全性チェック
2つのマインドセット
- 希望的観測ではなく論理的積み上げ:「エイヤ!」で作った数字は一瞬で見抜かれる
- 売上は厳しめに、経費は多めに:ネガティブシナリオでも資金が回る構造を作る
健全性チェック
- 黒字化は4〜6ヶ月目が順当(1〜3ヶ月目は楽観的すぎ、10ヶ月以上は遅すぎ)
- 返済原資(税引後利益+減価償却費)>毎月の返済額を確認
「黒字かどうか」だけでなく「現金が回るかどうか」も重要。黒字倒産を防ぐために資金繰りも確認しましょう。
まとめ
日向「希望的観測じゃダメなんですね…厳しいな」
冴島「厳しいですが、それが経営者の責任です。収支計画の作成にあたっては、『希望』を排除し、『論理』と『リスク管理』に基づいた堅実なシミュレーションを行ってください」
日向「厳しめに見積もるようにします」
冴島「その姿勢こそが、金融機関からの信頼を勝ち取る最大の武器になります」
✅ この記事のまとめ
金融機関が「返済できる」と確信する収支計画の作り方を解説しました。
- 収支計画は「事業が継続可能であることの証明」(Excelを埋める作業ではない)
- 希望的観測ではなく、論理的に積み上げた数字を作る
- 売上は厳しめに、経費は多めに見積もる
- 黒字化は4〜6ヶ月目が順当で健全
- 返済原資(税引後利益+減価償却費)が返済額を上回ることを確認する
「希望」ではなく「論理」と「リスク管理」に基づいた堅実な計画が、信頼を勝ち取ります。
